2.テオフィリンと痙攣
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|成分名             |該当商品名              |
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|テオフィリン          |テオドール(三菱化成)他       |
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|薬効分類等:気管支拡張剤                        |
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|効能効果:(テオドール錠100、200の場合)             |
|       気管支喘息、喘息性(様)気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫  |
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(1)症例の紹介
 テオフィリンは気管支拡張、肺血管拡張、呼吸中枢刺激、気道の粘液線毛輸送能の
促進等の薬理作用を有し、気管支喘息等の治療に広範に用いられている薬剤であるが、
有効血中濃度の範囲が狭く、投与に際してはその血中濃度に注意する必要があるとい
われている。
 また、有効血中濃度の維持に影響を与える要因として、併用薬剤や、肝疾患、年齢、
食事内容、喫煙等が知られており、特に併用薬剤との相互作用は臨床上重要で、これ
までも相互作用についても本情報No.108(平成3年5月号)で情報提供してき
ている。
 テオフィリンの投与により痙攣を発現したとする報告は以前からあり、すでに「使
用上の注意」に過量投与により痙攣があらわれることがある旨の記載を行い、注意を
喚起している。今回新たに報告されたこれらの症例の検討及び文献の検索を行ったと
ころ、小児での発現が多く、なかでもてんかん及び痙攣の既往歴のある症例、ウイル
ス感染が疑われる発熱時において痙攣の発現が多くみられた。
 小児での報告は症例、文献(文献1〜6)をあわせ12例になるが、痙攣発現後も
抗てんかん剤を併用しつつテオフィリンが継続投与されている症例もあり、因果関係
は必ずしも明らかではない。また、テオフィリンの血中濃度が測定されている症例は
11例あり、うち有効血中濃度の上限といわれている20μg/mlを超えていた症
例は5例、他の6例は9.3〜16.9μg/mlと有効血中濃度域内であることが
確認されている。ただし、血中濃度測定の時期がそれぞれ異なり、痙攣発現時の濃度
が不明の症例もある。
 患者背景について調査を行ったところ、てんかん及び痙攣の既往歴のある患者が6
例であった。また、ウイルス感染が疑われる発熱時の患者が4例(ただし、てんかん
の既往歴ありと重複症例が2例)であった。なお、ウイルス感染の4例のうち3例は
高い血中濃度が確認されている。
 報告された症例等の一部を紹介する(表2)。
 
表2 症例の概要
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|No.1                             企業報告|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         4                      |
|   使用理由(合併症)  気管支喘息、てんかんの疑い          |
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|投与量・投与期間:200mg、2ヵ月                   |
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|副作用−経過及び処置                           |
|原因不明の意識喪失発作がありフェノバルビタールの投与を続けていたが、気管支|
|喘息のためテオフィリン、塩酸テルブタリンを投与した。約2ヵ月後に発熱したた|
|め(ウイルス感染不明)、翌日塩酸ミノサイクリンを投与した。その後右半身痙攣|
|が1時間持続したため入院した。ジアゼパムの投与により改善した。入院時のテオ|
|フィリン血中濃度は10.6μg/mlであった。              |
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|併用薬:塩酸テルブタリン、カルボシステイン、フェノバルビタール、塩酸ミノサ|
|    イクリン                             |
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|No.2                         企業報告、文献1|
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|患者 性          女                      |
|   年齢         10                     |
|   使用理由(合併症)  気管支喘息(アトピー性皮膚炎)        |
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|投与量・投与期間:400mg、1年4ヵ月                 |
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|副作用−経過及び処置                           |
|気管支喘息、アトピー性皮膚炎に対しテオフィリン、フマル酸ケトチフェンの投与|
|を行っていた。投与開始8ヵ月頃に後頭部を打撲し、30分間意識喪失したが、脳|
|波頭部CTには異常は認められなかった。投与開始から約1年4ヵ月後に咽頭発赤|
|、39.2゜C度の発熱でウイルス感染と診断され、その翌日全身性強直性痙攣が|
|発現した(テオフィリン血中濃度23.6μg/ml)。ジアゼパムの投与により|
|痙攣は消失したが、その後意識障害が認められ、左顔面の攣縮と右上肢の強直性痙|
|攣が2回認められた。後者はジアゼパムで抑制しえたが、意識障害が持続するため|
|転院した。意識障害はその日のうちに回復、テオフィリンの投与を中止した。転院|
|9日後の脳波はdiffuse irregular spike & waveが認められた。バルプロ酸ナトリ|
|ウムの投与を開始したところ、その後特に異常は認められていない。      |
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(2)安全対策
 今回の検討により、テオフィリンを小児に投与する場合には、てんかん及び痙攣の
既往歴のある患者では痙攣を誘発する可能性があるため、注意する必要があることが
明らかになった。また、ウイルス感染により発熱をきたしている症例では血中濃度が
高くなる可能性がある。これら小児に投与する際に必要な注意について「使用上の注
意」に小児への投与の項を設け、注意を喚起することとした。
 しかしながら、痙攣発現例のなかには上記の誘発因子が確認されていない例、血中
濃度が治療域にある例があること等不明な点が多い。また、前述のとおり併用薬剤と
の相互作用も多く知られていること等から考えると、本剤投与にあたっては、テオフ
ィリンの血中濃度に基づき投与量を管理するなど、すべての患者で十分な注意が必要
だと考えられる。
 
<<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>>
<テオフィリン>
小児への投与
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 (1)てんかん及び痙攣の既往歴のある小児では痙攣を誘発することがあるので慎
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   重に投与すること。
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 (2)ウイルス感染(上気道炎)に伴う発熱時にはテオフィリンの血中濃度が上昇
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   するおそれがあるので慎重に投与すること。
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<参考文献>
1)吉村加与子他:小児科診療,46:317(1993)
2)江上由里子他:小児内科,24:1761(1992)
3)日本小児保健学会第39回総会抄録(1992)
4)大分小児神経学会第33回総会抄録(1991)
5)日本小児神経学会第33回総会抄録(1991)
6)日本小児アレルギー学会第29回総会抄録(1992)