1.プラバスタチンナトリウム、シンバスタチンと横紋筋融解症
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|成分名             |該当商品名              |
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| プラバスタチンナトリウム   |メバロチン(三共)          |
| シンバスタチン        |リポバス(萬有製薬)         |
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|薬効分類等:高脂血症用剤                        |
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|効能効果:高脂血症                           |
|     家族性高コレステロール血症                  |
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(1)症例の紹介
 高脂血症用剤による横紋筋融解症の発現については、すでに本情報No.112(
平成4年1月号)において、(a)フィブラート系薬剤による症例、(b)フィブラ
ート系薬剤とHMG−CoA還元酵素阻害薬(HMG−RI)の併用による症例、特
に腎機能障害を有する患者での発現について、B他のHMG−RIによる外国での報
告(文献1〜4)等について情報提供している。
 その後、同様の症例に関する情報収集に努めてきたが、その結果、HMG−RI投
与により横紋筋融解症を発現したとする症例がプラバスタチンナトリウムで8例報告
されている。報告された症例はほとんどがベザフィブラート、クロフィブラートとい
ったフィブラート系薬剤が併用されており、横紋筋融解症の発現にはこれらの併用薬
剤の関与が強く疑われるが、透析患者での単独投与例が1例ありプラバスタチンナト
リウムの関与も否定できない。
 また、これまでは投与前に腎機能障害を有する患者での発現が多く、特徴のひとつ
にあげられるので、特にこれらの患者への投与に対する注意を喚起してきたが、報告
された症例のうち3例は投与前の腎機能が正常な患者であった。
 一方シンバスタチンでは国内の症例の報告はないものの、外国においては現在まで
に5報5例の文献報告がある。詳細は不明の点もあるが、単独投与によると考えられ
る症例の報告や、シクロスポリンとの併用による報告などがある(文献3〜7)。
 報告された症例等の一部を紹介する。(表1)
 
(2)安全対策
 横紋筋融解症は骨格筋の融解、壊死により筋細胞成分が血液中へ流出した病態であ
る。自覚症状としては四肢の脱力、痛み、赤色尿などがあり、検査所見としては、血
中・尿中ミオグロビンのほかCPK,GOT,GPT等の急激な上昇が認められる。
この場合同時に急性腎不全等の重篤な腎障害を併発することが多い。
 今回プラバスタチンナトリウム単独投与例でも横紋筋融解症が報告されたことから、
これまで「使用上の注意」に記載させていたフィブラート系薬剤との併用のほかに、
単独の投与に際しても注意が必要であると考えられる。また、腎障害のない患者での
発現も報告されていることから、プラバスタチンナトリウムの投与にあたっては腎障
害患者以外の場合にも注意が必要と考えられる。
 現在得られている情報から判断すると、発現率はきわめて低いと考えられるが、横
紋筋融解症は急性腎不全等の重篤な腎障害を伴うことが多いため、プラバスタチンナ
トリウムの投与にあたっては筋肉痛、脱力感等の症状、及びCPK上昇、血中・尿中
ミオグロビン上昇等の検査値異常に十分注意し、異常が認められた場合には投与を中
止するなど適切な処置を行う必要がある。
 シンバスタチンについては国内での報告はないものの、外国では報告があることか
ら、プラバスタチンナトリウムと同様の注意が必要だと考えられる。
 このため両剤の「使用上の注意」の副作用の項に横紋筋融解症に関する記載を行い、
フィブラート系薬剤と同様の注意喚起を行うこととした。
 
<使用上の注意(下線部追加改訂部分)>
「プラバスタチンナトリウム、シンバスタチン」
副作用
 筋肉:筋肉痛、脱力感、CPK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とする
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   横紋筋融解症があらわれ、これに伴って急性腎不全等の重篤な腎障害があらわ
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   れることがあるので注意すること。(以下現行の記載)
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表1 症例の概要
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|No.1                      モニター報告、企業報告|
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|患者 性          男                      |
|   年齢         57                     |
|   使用理由(合併症)  高脂血症(慢性腎不全)            |
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|投与量・投与期間:プラバスタチンナトリウム10mg 130日間      |
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|副作用−経過及び処置                           |
|患者は慢性腎不全のため人工透析を施行しており、また急性心筋梗塞に対し冠状動|
|脈バイパス術を施行されていた。                      |
|高脂血症の治療のためプラバスタチンナトリウムの投与を開始したところ、投与約|
|3ヵ月後に軽度の全身筋力低下が発現し、さらにCPK、GOT、GPT、LDH|
|の明らかな上昇を認めた。その後CPKが7862IU/lと高値を示したため、本剤|
|の投与を中止したところ、検査値異常および筋力低下の改善を認めた。     |
|                                     |
|臨床検査値                                |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|       投与後  投与後  投与後  中止後  中止後  中止後  |
|       77日  105日 112日 10日  17日  38日  |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|CPK(IU/l)    32   6363   7862   2502    146    51   |
|GOT(IU/l)    12    282    356    159    20    14   |
|GPT(IU/l)     8    178    148    99    20    11   |
|LDH(IU/l)    143   1065    951    687    402    260   |
|AlP(IU/l)    38    33    24    14    −    21   |
|γ-GTP(IU/l)  22    15    12    25    −    27   |
|Cr(mg/dl)   10.9   10.1    8.8   10.7    −    8.8   |
|BUN(mg/dl)  95.8   79.7   77.1   96.8    −   77.4   |
|TC(mg/dl)    207    238    180    139    −    141   |
|TG(mg/dl)    379    341    −    212    −    222   |
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|併用薬:アルファカルシド−ル、小柴胡湯、他                |
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|No.2                              文献5|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性          女                      |
|   年齢         68                     |
|   使用理由(合併症)  高コレステロール血症(発作性心房細動)    |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|投与量・投与期間:シンバスタチン10mg 約3ヵ月間           |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過及び処置                           |
|胆嚢切開及び子宮切除の既往のある患者で発作性心房細動に対し、ジギタリス及び|
|dicoumarolの投与をされていた。                      |
|同時に高コレステロール血症に対しシンバスタチンの投与を開始したところ、約3|
|ヵ月後に肩、背に強度の筋痛が発現した。CPK値は26010IU/lを呈し、GOT、 |
|GPT、血中及び尿中ミオグロビン、ミオシン値も上昇した。また、抗核抗体及び|
|抗筋自己抗体が認められなかった。本剤の投与を中止したところ、症状は徐々に消|
|失した。                                 |
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|併用薬:ジギタリス、dicoumarol                      |
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<参考文献>
1)Tobert,J.A.:Am.J.Cardiol.,62:28J(1988)
2)Corpier,C.L.,et al.:JAMA,260:239(1988)
3)Deslypere,J.P.,et al.:Annals Intern.Med.,114:342(1991)
4)Berland,Y.,et al.:Nephron,57:365(1991)
5)Bizzaro,N.,et al.:Clin.Chem.,38:1504(1992)
6)Dromer,C.,et al.:Rev.Rhum.Mal.Osteoartic.,59:281(1992)
7)Blaison,G.,et al.:Rev.Med.Interne.,13:61(1992)