2.テガフール製剤(テガフール、テガフール・ウラシル)と安静狭心症
 
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|成分名                |該当商品名            |
|     テガフール         |フトラフール(大鵬)他40社   |
|     テガフール・ウラシル    |ユーエフティ(大鵬)       |
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|薬効分類等:抗悪性腫瘍剤                         |
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|効能効果 :(テガフール・ウラシルの場合)                |
|      頭頚部癌、胃癌、結腸・直腸癌、肝臓癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、|
|      肺癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頚癌の自覚的・他覚的症状の寛|
|      解                              |
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(1)症例の紹介
 テガフールはピリミジン拮抗性腫瘍剤フルオロウラシル(5−FU)の誘導体で、
生体内で徐々に代謝されて5−FUに変換され抗腫瘍効果を発揮する。テガフール・
ウラシルは5−FUの腫瘍内濃度を高く維持するためにテガフールに核酸構成成分で
あるウラシルを配合した製剤である。
 5−FUの静脈内投与により狭心症様症状があらわれることはすでに知られており、
5−FUおよびテガフールなど5−FU誘導体の「使用上の注意」にその旨の注意が
記載されている。経口投与ではこのような症状はほとんど知られていなかったが、テ
ガフールまたはテガフール・ウラシルを経口投与された症例で胸痛、ST上昇等の心
電図異常を示す安静狭心症を発現したとする症例が現在までに4例報告されているの
で紹
介する。報告された症例はいずれも本剤の投与中止により速やかに回復している。ま
た、テガフールの再投与で再発している症例もある。これら4例のうち少なくとも2
例は狭心症様症状の既往がない。
 症例の一部を紹介する(表2)。
 
(2)安全対策
 テガフール製剤投与中は静脈内投与はもちろんのこと経口投与でも、胸痛などの狭
心症様症状の発現に注意し、異常が認められた場合は直ちに心電図検査を行い適切な
処置を行う必要がある。
 5−FUの誘導体としては、テガフールのほかにカルモフール、ドキシフルリジン
があるが、カルモフールで前胸部痛の報告があるほかは5−FUを含めいまだ経口剤
では安静狭心症の報告はない。しかしながら、これらの薬剤の投与に際しても、同様
の注意が必要である。
 
《使用上の注意(下線部追加改訂部分)》
<テガフール・ウラシルの場合(テガフールについても同様に改訂)>
4.副作用
 循環器:まれに安静狭心症、胸内苦悶感、胸痛、心電図異常(ST上昇等)があら
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われることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止す
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るなど適切な処置を行うこと。
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<参考文献>
1)中川義久他:呼と循,36:1265(1988)
2)成田英俊他:青県病誌,36:80(1991)
 
表2 症例の概要
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|No.1                         企業報告/文献1|
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|患者 性     男                           |
|   年齢    53                          |
|   使用理由  胃癌                          |
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|1日投与量・期間:フルオロウラシル点滴静注500mg1日、テガフール・ウラシル |
|         経口6カプセル(テガフールとして600mg)12日間     |
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|副作用−経過および処置                          |
|早期胃癌のため胃亜全摘手術を行った患者に、フルオロウラシル、マイトマイシン|
|C、シタラビンの点滴静注を行ったところ約24時間後に冷汗を伴う胸痛が発現し|
|た。心電図検査を行ったところ、T波尖鋭化、ST上昇を認めたが、胸痛消失後ま|
|もなく正常化した。胸痛は10分くらいで軽快するが、断続的に約8時間持続した|
|。テガフール・ウラシルの投与を開始したところ、6日目に冷汗を伴う胸痛が発現|
|した。胸痛は10〜15分くらいで軽快するが、断続的に2時間くらい持続した。|
|ホルター心電図を施行したところ胸痛に一致してST上昇が認められた。テガフー|
|ル・ウラシルの投与を中止し、ジルチアゼム240mg/日の投与を行い、その後胸痛 |
|の再発はみられなかった。エルゴノビン負荷冠動脈造影を施行したところエルゴノ|
|ビン0.1mg静注後前胸部不快感を訴え、それとともに右冠動脈のSeg2にスパスムが|
|認められた。これまで胸痛等の狭心症様症状の既往はなかった。        |
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|No.2                        企業報告/文献2*|
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|患者 性     男                           |
|   年齢    53                          |
|   使用理由  肺癌                          |
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|1日投与量・期間:テガフール・ウラシル3カプセル(テガフールとして300mg) |
|         12日間                        |
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|副作用−経過および処置                          |
|投与開始10日目に失神発作を起こし血圧低下(収縮期血圧60mmHg)と徐脈が認め|
|られ、昇圧剤投与により回復した。5時間後胸痛を訴え、再び血圧低下と意識低下|
|が認められた。モニター心電図でSTの著明な上昇と房室解離が認められた。亜硝|
|酸剤静注により症状は軽快した。テガフール・ウラシルの投与を中止したところ、|
|胸痛は再発しなかった。                          |
|(*文献中テガフールとあるが詳細調査の結果テガフール・ウラシル投与例だっ |
|た)                                   |
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|併用薬:ファモチジン、塩酸アンブロキソール、ロフラゼプ酸エチル他     |
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|No.3                             企業報告|
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|患者 性     女                           |
|   年齢    55                          |
|   使用理由  子宮頚癌                        |
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|1日投与量・期間:テガフール800mg 3日間              |
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|副作用−経過および処置                          |
|テガフールの投与開始3日目に胸痛が発現したため、本剤の投与を中止した。翌日|
|再び胸痛が発現したため、救急外来を受診したところ、心電図検査でV3-5にST |
|上昇が認められた。CPK、GOT、LDH、WBC等に変化はなかった。投与中|
|止後3日で発作は消失し、その後認められていない。             |
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|併用薬:アスコルビン酸、塩酸ジサイクロミン・乾燥水酸化アルミニウムゲル・酸|
|    化マグネシウム配合剤                       |
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