1.高脂質血症治療薬(フィブラート系薬剤、HMG-CoA還元酵素阻害薬)と横紋筋融
解症
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|成分名 |該当商品名 |
|《フィブラート系薬剤》 | |
|クロフィブラート |アモトリール(住友)他32社 |
|ベザフィブラート |ベザトールSR錠(キッセイ) |
|クロフィブラートアルミニウム |アルフィブレートカプセル(日研化学) |
|シンフィブラート |コレソルビンカプセル(吉富)他5社 |
|クリノフィブラート |リポクリン錠200(住友) |
|《HMG-CoA還元酵素阻害薬》 | |
|プラバスタチンナトリウム |メバロチン錠(三共) |
|シンバスタチン |リポバス錠(万有) |
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|薬効分類等:高脂質血症治療薬 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|効能効果 :(クロフィブラートの場合) |
| 高脂質血症 |
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(1)症例の紹介
a.薬剤の紹介
フィブラート系薬剤は高脂質血症治療薬として最も長い歴史をもつもので、昭和40
年(1965年)8月にクロフィブラートが承認されたのをはじめとしてクロフィブラー
トアルミニウム、シンフィブラート、クリノフィブラート、さらに新しい薬剤として
平成3年(1991年)1月にベザフィブラートが承認されている。また、国内では未発
売であるが同系統のgemfibrozilが外国で使用されている。
ヒドロキシメチルグルタリル(HMG)-CoA還元酵素阻害薬(HMG−RI)は、生体
内コレステロール合成系でアセチルCoAからメバロン酸が生成される過程を阻害する
という新しい機序の高脂質血症治療薬で、平成元年(1989年)3月プラバスタチンナ
トリウムが、平成3年(1991)10月にシンバスタチンが承認されている。また、国内
では未発売であるが同系統のlovastatinが外国で使用されている。
b.フィブラート系薬剤と横紋筋融解症
クロフィブラートに代表されるフィブラート系薬剤の投与中に筋肉痛、クレアチン
ホスホキナーゼ(CPK)の上昇等があらわれることはすでに知られている。最近、
クロフィブラート、ベザフィブラートで横紋筋融解症が発現したとする症例が新たに
報告され、また、学会や文献での発表例(文献1)も認められている。
横紋筋融解症(rhabdomyolysis) は骨格筋の融解、壊死により筋細胞成分が血液中
へ流出した病態である。自覚症状としては四肢の脱力、腫脹、しびれ、痛み、赤褐色
尿などがあり、検査所見としては、血中・尿中ミオグロビンのほか、CPK、GOT、
GPT、LDH、アルドラーゼなどの筋逸脱酵素群の急激な上昇が認められる。この
場合同時に急性腎不全を併発することが多く、これは急激に大量のミオグロビンが尿
細管に負荷される結果と考えられている(文献2)。近年、血中および尿中のミオグ
ロビンが容易に測定できるようになったことから、横紋筋融解症と診断される症例が
増えてきたものと思われる。
c.HMG−RIと横紋筋融解症
HMG−RIのプラバスタチンナトリウム、シンバスタチンについては、これらを
単独の被疑薬とする横紋筋融解症の報告はいまだ国内ではないが、これらの薬剤によ
る筋肉痛、CPK上昇の報告があり、また、外国ではすでに同系統のlovastatinで横
紋筋融解症が報告されている(文献3、4)ほかシンバスタチンでも関係を疑う文献
(文献5、6)が報告されている。
d.フィブラート系薬剤とHMG−RIの併用
gemfibrozilとlovastatinとの併用でそれぞれ単独投与時に比べて併用時に横紋筋
融解症発現の危険性が高まるとする報告(文献3、4、7)があり、フィブラート系
薬剤とHMG−RIとの併用による横紋筋融解症の発現が注目されている。わが国で
もすでにクロフィブラートまたはベザフィブラートとプラバスタチンナトリウムとの
併用例による横紋筋融解症が報告されている。
e.症例の概要
現在までに高脂質血症治療薬の投与中に横紋筋融解症を発現したとする症例は7例
報告されており、その性別は男6例、女1例、年齢は49〜74歳、CPKは4300〜
6万9580IU/lで1万IU/lを超える例が4例、血中ミオグロビン値も500〜6万4000ng/ml
と異常高値を示している。また、報告症例の腎機能については、投与前にすでに腎機
能障害を有していた例がほとんどで、さらに、症状経過中のクレアチニン値の判明し
ている症例の全例で横紋筋融解症の発現に伴ってその急激な上昇を認めている。
症例の一部を紹介する。(表1)
(2)安全対策
高脂質血症治療薬による横紋筋融解症の発現症例の多くは、全身倦怠感、筋肉痛と
ともにCPK、血中・尿中ミオグロビンの急激な上昇等が認められている。これらの
薬剤の投与に際しては筋肉痛の発現やCPKの変動に注意する必要がある。また、報
告例の多くが腎機能障害を有する患者であることおよび横紋筋融解症に伴って急激に
腎機能の悪化が認められることから腎機能障害を有する患者に対しては、その投与の
可否を十分に検討し、投与を行う場合には減量や投与間隔をあけるなど十分な注意が
必要である。特にフィブラート系薬剤の投与にあたっては、投与前に患者の腎機能を
検査して慎重に対処すべきである。さらに、フィブラート系薬剤とHMG−RIとの
併用は、横紋筋融解症が発現しやすいとの報告があるため、特に注意する必要がある。
また、HMG−RIのlovastatinで免疫抑制剤シクロスポリンやニコチン酸と併用す
ると横紋筋融解症があらわれやすいとの報告(文献3、4)があるのでHMG−RI
とこれらの薬剤との併用についても注意が必要である。
このためフィブラート系薬剤およびHMG−RIの「使用上の注意」に、横紋筋融
解症に関する必要な整備を行うこととした。
(3)報告のお願い
高脂質血症治療薬による横紋筋融解症の発現については今後も一層情報の収集を図
る必要があるので、同様な症例の報告をお願いしたい。
《使用上の注意(下線部追加改訂部分)》
<フィブラート系薬剤>
クロフィブラートの場合(ベザフィブラート、クロフィブラートアルミニウム、シン
フィブラート、クリノフィブラートについても同様に改訂)
一般的注意
腎機能障害を有する患者において急激な腎機能の悪化を伴う横紋筋融解症(「副作
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用(4)筋肉」の項参照)があらわれることがあるので、投与にあたっては患者の腎
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機能を検査したうえで投与の可否を決定し、血清クレアチニン値に応じ減量又は投与
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間隔の延長等を行うこと。
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副作用
(4)筋肉:筋肉痛、ときにCPKの上昇があらわれることがあるので、このような
場合には減量又は休薬すること。
特に腎機能障害を有する患者において、筋肉痛、脱力感、CPK上昇、血中及
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び尿中ミオグロビン上昇を特徴とする横紋筋融解症があらわれ、これに伴って
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急激に腎機能が悪化することがあるので注意すること。
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相互作用
(2)他のフィブラート系薬剤(gemfibrozil)とHMG-CoA還元酵素阻害薬(lovas-
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tatin)との併用により横紋筋融解症があらわれやすいとの報告があるので注意
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すること。
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<HMG-CoA 還元酵素阻害薬>
プラバスタチンナトリウムの場合(シンバスタチンについても同様に改訂)
相互作用
他のHMG-CoA還元酵素阻害薬(lovastatin)で、フィブラート系薬剤(gemfibrozil)、
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免疫抑制剤(シクロスポリン等)、ニコチン酸との併用により、筋肉痛、脱力感、
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CPK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とし、急激な腎機能悪化を伴う横
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紋筋融解症があらわれやすいとの報告があるので注意すること。
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表1−1 症例の概要
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|症例 No.1 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 56 |
| 使用理由 高脂質血症 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:クロフィブラート1500mg 10日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置 |
|患者は18年前より慢性腎不全のため人工透析を施行していた。また、同時期よ|
|り発現した労作性狭心症に対し経皮的冠動脈形成術を施行していた。冠動脈造影|
|と腹膜透析導入のため入院し、高脂質血症の治療のためプラバスタチンナトリウ|
|ム、クロフィブラートの投与を開始したところ、クロフィブラート投与7日後に|
|四肢脱力、腰部筋力低下が発現した。10日後にはCPKが13390IU/lと最高値 |
|を示し、横紋筋融解症と診断された。その後上肢筋生検により横紋筋壊死を認め|
|た。クロフィブラートのみ投与を中止したところ、CPK、筋力低下の改善を認|
|めた。 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:硝酸イソソルビド、塩酸ジルチアゼム、ジピリダモール、 |
| ニコチン酸トコフェロール、ニフェジピン他 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|検査値 |
| LDH(U/l) CPK(IU/l) T-Ch(mg/dl) |
| −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− |
| 入院時 319 27 162 |
| 投与後6日 − − 173 |
| 投与後10日 − 13390 − |
| 中止後4日 3288 4300 220 |
| 中止後14日 802 116 206 |
| 中止後18日 619 69 198 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
表1−2 症例の概要
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|症例 No.2 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 女 |
| 年齢 51 |
| 使用理由 高脂質血症 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:ベザフィブラート400mg 31日間 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置 |
|糖尿病性腎症、高血圧、慢性腎不全、高脂質血症を合併する患者に対しベザフィ|
|ブラートの投与を開始したところ、投与1〜2週間で背部痛が出現し、さらに四|
|肢の筋肉痛を訴えるようになった。四肢疼痛を訴え来院したところ、CPKが |
|18413IU/lと異常高値を示し、BUN、クレアチニンの上昇が認められたため横 |
|紋筋融解症を疑い入院した。ベザフィブラート等の投与を中止したところ、諸症|
|状は徐々に軽快した。 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:塩酸ニカルジピン、インスリン亜鉛 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|検査値 |
| GOT GPT LDH クレア BUN アルド CPK |
| チニン ラーゼ |
| (IU/l) (IU/l) (U/l) (mg/dl) (mg/dl) (U/l) (IU/l) |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|投与開始日 − − − − 30 − − |
|中止後1日 − − − 3.4 54.3 − 18413 |
|中止後2日 503 221 2774 3.6 56.6 60 18604 |
|中止後16日 72 131 1949 2.6 43.1 87 3588 |
|中止後26日 18 36 818 2.7 42.5 − 215 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|症例 No.3 企業報告|
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|患者 性 男 |
| 年齢 49 |
| 使用理由 高脂質血症 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|1日投与量・投与期間:ベザフィブラート400mg 11日間 |
| プラバスタチンナトリウム投与量不明 約8ヵ月 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|副作用−経過および処置 |
|腎不全をもつ患者の高脂質血症に対しプラバスタチンナトリウムを投与し、約8|
|ヵ月後にベザフィブラートを追加投与した。ベザフィブラート投与開始6日目に|
|両上肢に筋痛が発現し、その後腹部、腰部、下肢へと広がり入院した。両剤の投|
|与を中止し透析を行ったところ、筋痛は軽快した。 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|併用薬:ニフェジピン、塩酸ジラゼプ、フロセミド、塩酸オクスプレノロール |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|検査値 |
| GOT GPT LDH CPK 血中 クレア BUN |
| ミオグロビン チニン |
| (IU/l) (IU/l) (U/l) (IU/l) (ng/ml) (mg/dl) (mg/dl)|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|投与7日後 1421 − 4400 41500 − 5.0 53.2 |
|8日後 1602 − 6730 55000 − 7.4 72.5 |
|中止日 1551 390 8260 69580 64000 11.3 100.3 |
|中止後7日 125 154 4890 55000 − 13.1 86.1 |
|中止後12日 25 − − 188 − 14.3 85.7 |
|中止後21日 14 8 545 − − 8.1 50.4 |
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
参考文献
1)Demedts,W.,et al.:Peritoneal Dial.Bull.,3(1):15(1983)
2)副島昭典他:日本臨床,49(6):98(1991)
3)Tobert,J.A.:Am.J.Cardiol.,62:28J(1988)
4)Corpier,C.L.,et al.:JAMA,260:239(1988)
5)Deslypere,J.P.,et al.:Annals Intern. Med.114:342(1991)
6)Berland,Y.,et al.:Nephron 57:365(1991)
7)Pierce,L.R.,et al.:JAMA,264(1):71(1990)